−俺は、全ての結末を知っている− −知っているからこそ、為さねばならぬ事がある− 例えこの身が、砕けようとも。 「貴様はジョースターの仲間、確か…仁、と言ったなァ?貴様の様な一般人が何 故一人で此処に居る?自分の無力さを悟りこのDIOに仕える気にでもなったか ?」 目の前に映るは『世界』を我が物にしようとする巨悪。 たった一人…いや正確には二人で挑むには、余りにも恐ろしい相手…それでも、 それでも俺は… コイツに、勝たなくてはならない。因縁を断ち切る者、として。 だから俺は叫ぶんだ、この一言を。 「ワイルド・ハーツッ!」 「問答無用、と言う訳か。無駄な事をッ!今までの戦いの報告を見るに貴様のス タンドは素早さだけが取り得!その素早さもこの『世界』の前では何の意味も為 さんわッ!」 そう、奴はまだ俺を過小評価している。その油断が、その油断こそが、俺に勝機 を与えてくれる。意識下から解放したワイルド・ハーツは奴を撹乱する程度には 動けるはずだ。 「ちょこまかちょかまかとハエの様に鬱陶しい…ならばスタンドはスタンドに任 せて貴様は、この体を完全とする為血をすすっててくれようかッ!」 人間を超えた吸血鬼の身体能力で奴が俺に向かってくる。圧倒的な恐怖に心が塗 り潰されそうになる。だがそれで良い、それで構わない。 「ほう…逃げぬのか。最も、逃げる場所もありはしないがな。しかし、しかし… だ。こんなものでこのDIOを倒せるとでも思ったか貴様ッ」 DIOの蹴りが俺の体に巻き付いたダイナマイトを弾き飛ばし、続いて繰り出さ れる拳が俺の腹を抉る。 「おっとすまんすまん、殺してしまっては血の鮮度が下がるからなァ。それでは 、いただくとしよう」 奴の手によって体が浮き上がり、奴の笑みが視界を埋める。 「なあDIO、速さでは俺のワイルド・ハーツの方が上のようだな」 血と共に吐き出した言葉にDIOの顔が歪む。そうだ、後少し、後一呼吸分で良 い。俺の話に乗りやがれDIO。 「何かと思えばくだらぬ事を。貴様もジョースター家の様に負け惜しみを言いた がるのだな仁。貴様のスタンドなど『世界』は仕留めようと思えばすぐ仕留めら れる。貴様の鮮度を下げぬよう遊んでいるだけの事」 ああそうかいDIO、最後まで俺を侮ってくれてありがとう。そして… 「さて遺言はそれで済んだか?貴様を殺した後は我が館の門に飾ってやろう。忌 々しいジョースター達がどのような顔をするか見物よなあ…最も、貴様はそれを あの世から眺めるしか出来んのだろうがなァ」 此処まで顔を近付けてくれてありがとう。この距離なら、外す事はない。俺はこ れからある言葉を叫ぶだけだ。その体の本来の持ち主の様に。旅で出会った気高 き戦士の様に。 「波紋疾走ッッッ!」 「馬鹿な、このDIOが貴様なんぞにッ!貴様の様な取るに足らない存在にッ! それに何故、貴様がッ!」 「波紋を使えるか、か?DIO、そこんとこだが、俺にもようわからんと言うべ きなんだろうが教えといてやるよ。ウチには一家に伝わる健康体操みたいなモン があってな。俺も親父も母さんも姉貴も…健康の為だと信じて疑わず毎朝それを 繰り返してた。波紋の呼吸だって気付いたのはつい最近さ。なあ、DIOお前は 人間を取るに足らないものだと思っているよな?それ故に俺を侮った。たった一 人で来た俺を侮った…だがなDIO、俺は一人なんかじゃない。承太郎には決し て折れない強さを教えて貰った。花京院には遠距離スタンドの操作方法を。ジョ ースターさんには土壇場の駆け引きを。ポルナレフにはスタンドの速さを高める 方法を。アヴドゥルには仲間の為に自らをも犠牲にする事も厭わない熱情を。イ ギーには野生の本能を。スピードワゴンには一般人であろうとも吸血鬼に立ち向 かえる勇気を。シュトロハイムには何があろうと任務をやり遂げる誇りを。ダイ アーさんには死してなお盟友の為に戦う気高さをッ!そんな俺をたった一人と言 った貴様が!俺に繋がる絆の素晴らしさに気付かない貴様が!絆から、生命から 逃げ出し吸血鬼なんぞに成り果て生命を餌としか考えられない貴様が!俺に!勝 てると思っていたのかッッッ!!!」 「御高説痛み入るがこのDIOにそんなものは必要ない…何故ならばこのDIO にとって『勝利して支配する』事が全て。絆など、どうでも良いのだァ!今のお 喋りの間にトドメを刺さなかった事をあの世で後悔するんだな、『世界』ッ!時 よ止まれッッッ!」 モノクロームの世界が俺を包む。これが止まった世界。そしてDIOの『世界』 の正体。 迫り来る拳を受け止めるは銀毛の獣人。もう一人の俺。 「何故だ、何故この止まった世界の中で貴様が動けるッ?」 「随分と何故が多いじゃあないかDIO、簡単な事だ。実際俺は一歩も動けやし ない、だがワイルド・ハーツは動ける。それは加速を続けて行けばやがて時すら 追い越してしまうって事さ。俺のスタンドはスピードが命のスタンドだからな、 これぐらい出来ても不思議じゃないさ」 「ふざけるなッ!加速を続ければ、だと?そんな力があるなら今まで何故使わな かったッ!」 「まあ、俺にも色々事情があるしこんな事が出来るのは今だけさ。それに、今の お前ならパワーに欠けるワイルド・ハーツでも仕留められる。承太郎、もう一度 セリフ借りるぜ…」 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!『裁く』のは ッ!俺のスタンドだッ!」 ラッシュを浴びたDIOが倒れ伏すのと同時に世界に色が戻っていく… 「てめーの敗因はたったひとつだぜ…DIO…たったひとつの単純な答えだ…」 『てめーは生命を怒らせた』 バラバラになったDIOの死体をかき集め朝になればよく日が当たるであろう場 所に吊るしておく。奴が言った門の飾りにまさか自分がなるとは思っていなかっ ただろう。悪趣味なオブジェだ。 けれど、これで終わりなんかじゃない。俺がこんな事をしている意味に気付くも のが居るとしたら… 「どうして、貴方は『運命』に従わないの?」 「貴方も、私のあの子を取り返そうとする努力をフイにしたいの?」 「ねえ、答えなさいよ…仁。七人目の、スタンド使い…」 聞こえる声は全ての黒幕の声、名はヴィンズ。 「生憎と『運命』ってのに俺は嫌われてるみたいでね…どうにも苦手なんだ、そ ーゆーのってさ」 「そう…ならばこの『運命』から貴方には退場して貰うわ…『運命』の観察者は 私一人で良いッ」 そう、これが本当の最後の戦い…最後にしなくてはならない『俺達』の戦い。 「ねえ…最後に一つだけ教えてよ仁。何故貴方は、DIOの世界の中で動けたの ?」 体が崩れたヴィンズが俺に問い掛ける。本当に何故が多い日だな今日は…。 「勘違いしてるみたいだが『俺』が動けたんじゃない。動けたのは『ワイルド・ ハーツ』さ」 「何を言っているの…?貴方のスタンドが動けるなら貴方が動ける事と意味に違 いは無いじゃない…」 「いいや違うね。『ワイルド・ハーツ』は俺であって俺じゃない。お前は考えな かったか?この混合世界が一巡した世界の産物ではなく、二巡目、三巡目の世界 の産物だ、と。だとしたら…以前も同じ事があったんだろう。七人目のスタンド 使いが、皆と共に犠牲を払いDIOを倒し、その事によって新しい『因縁』が生 まれてしまう世界が。だとしたら…そいつはどう思っただろうな?ソイツはそれ からも承太郎の傍に居たのかもしれない。承太郎と一緒にケープ・カナベラルで 散ったのかもしれない。そして時の加速に巻き込まれた時ソイツは気付いたんだ 。この結末の成り立ちに。ソイツのスタンドは『ハウリン・ウルフ』とでも名付 けようか。狼型のスタンドだった。その能力は風や竜巻を生み出す事、渦を作る 能力と言っても良い。だからソイツは加速する時間の中に渦を作った。ソイツの 全てをかけて、な。その結果…ソイツのスタンドは当人の精神と融合し、時の加 速に晒され続けた結果加速を主とする獣人型のスタンドに生まれ変わった。俺が この事を知ったのはつい最近だったがな…もう解るだろう?それが『ワイルド・ ハーツ』…俺であって俺でない。この世界の本当の『観測者』だ。最も…止まっ た時の中で動く事に費やしたパワーの所為で、もう一人の『俺』の意思はなくな りそうだがな…」 「何だ…貴方も私と変わらないじゃないの…そんな貴方がこれからどう生きてい くか見物ね…」 そう言ってヴィンズは動かなくなった。 「ああそうさ、俺達は『運命』に逆らう事を選び、お前は『運命』に従う事を選 んだ…多分そんな変わりはないんだろう。それでも、俺は受け継いだモノを捨て たくはないんだ…」 朝日が上るまでの時間、俺は『ワイルド・ハーツ』と、いやもう一人の『俺』と 語り合った。何故こんなギリギリのタイミングで急に真実を伝えたかと聞いた俺 に『俺』は少しだけ照れくさそうに答えた。 「お前にも俺のかけがえのない仲間達を紹介したかった、仲間達と旅をして欲し かった。それに…早い内に真実を伝えてお前が混乱することを避けたかった」 と。 朝日と共に顔は見えないが間違いなく俺らしき人物の魂が天へ上っていく…。 「『ワイルド・ハーツ』はこれから『お前』のスタンドだ。使う機会はないこと を願いたいが大事にしてやってくれよ…」 ああ、大事にするさ。さよなら、『俺』 その後俺は探しに来たみんなに見つかり、承太郎に出会い頭にブン殴られ、事と 次第をとことん説明させられそうになった。もし『隠者の紫』で頭を覗かれてた らやばかったがジョースターさんは仲間である俺にはそんな事をしなかった。た だ一つ答えられる事は「DIOをジョースター家の者が倒す事で新たな因縁が生 まれてしまう」という事だけだった…それでもみんな、俺の言葉を信じないまで も完全に否定はしなかった… そんな旅からもう十年が経ち、俺は今では高校の教師をやっている。何かと問題 児が多そうな学級ではあるがスタンドの力を使う事もなく過ごせている。 「このヘアースタイルがサザエさんみてェーだとォ?」 前言撤回。何処にでもトラブルはあるもんだ。上級生に絡んでる今時珍しいツッ パリ。ありゃウチのクラスの東方じゃねえか。こりゃ、止めなきゃならんなあ… to be continued…… 作者:TRAVIS ※ 一応主人公フルネーム鞍馬仁、普通の外見の男の子です。 後は何て言うか色々設定すっ飛ばしててすいません;
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